阿呆文庫

自作小説ブログ

【小説】レポートを渡せ!

 脂汗が溢れ出る。

 外は雨降り。

 いんげん豆を口に持っていく手が止まらない。

 大学のレポート。

 偉い人の言葉を引用しまくって権威付けしたのは良いが、引用元を明記するのをことごとく失念していた。

 友人に「俺はもうレポート完成したぞ。君はまだだと?ハッハッハ!まだまだだな」などと言わなければよかった。

 今や、私がレポートを完成させたのは大学中が知っている。

 誰かがおもむろに救助の手をさしのべてはくれないだろうか。

 苦難の時である。大きな裂け目に転落してしまったのだ。落ちた先には瘴気が立ち込め、打撲と息苦しさに苦しみつつ、脱出せんとモゴモゴしている。


その時、ドアが鳴った。階下に住む男であった。筋肉まみれの大男である。

「おい!水漏れしているぞ」

「うちではない。今は猛烈な雨が降っているから、そのせいだろう」

「そんなはずない。見せてみろ」

男はずかずかと家に入った。

「みろこの床を。濡れている」

そこはさきほど、俺があぐらをかいていたところだ。たしかに、水浸しである。

「ばかな。何もこぼしていないというのに」

「汗だろう」

「えっ」

「お前は尋常ではないほど汗をかいている。そのせいだ」

「ともかく、俺のレポートが濡れて台無しだ。どうしてくれるのだ」

「わかった。ここはひとつ、このいんげん豆で勘弁してくれ」

殴られた。

男は俺のレポートを見つけると、ひったくってもっていった。

後日、大学の広報に、レポートへの無断転載により退学になった者が1名云々の記事が踊った。